2015年5月15日金曜日

「うつくしいなまえ」

妊娠検査薬にうっすら線が見えたとき、自分でも信じられないくらいブワッと涙が出た。何度も手元の検査薬のラインを確認し、その度に新しい涙が次々に溢れて、畳にペタンと座りひとりで声をあげて泣いた。

それから数時間後、仕事帰りの夫を車で迎えに行く。ラインがくっきり出た検査薬をバッグの隅にしのばせて。

駐車場に車を停めて夫を待つ。iPhoneの動画撮影アプリを立ち上げながら、どんな風に告げようかと考えていると夫が早々に車に乗り込んできた。不自然にiPhoneのカメラを向けて検査薬を手渡す。すると明らかに戸惑い、混乱していた。そして瞳に少しの涙を浮かべて、「マジ? うっそ? マジ?」と繰り返す。それは喜びが爆発しないように自分を抑えているかのようだった。あらためて検査薬のラインの意味を確認し、一気に高揚する夫の様子につられて私も再び泣いた。「まあこれからだよ、がんばろう、がんばろう。よかった、よかった。ぼちぼちやっていこう。がんばります。よろしく」と、独り言のような口調で私に話す。見たこともない夫の表情――。私たちのカタチが変わり始めた瞬間だった。

車内にはちょうどbonobosの「うつくしいなまえ」が流れていた。


うつくしいなまえ(作詞:蔡忠浩、作曲: 蔡忠浩)

鼻たれは考えていた
小さなちんこの先っちょで触れてみる美しさ
まだ名前さえないもの
かみさまがそばにいて めらめらや ざぁざぁや びゅうっという
ぼくがみたうつくしさ そのすべてについて

お前はなんだと問うても めらめらざぁざぁびゅうっというばかり
もう一度訊ねてみると 好きに名前をつけろという

そして世界はいっせいに ぼくをとりかこみ言った
「うつくしさ、うつくしさにどうぞ名前を」と

薔薇の枝にある兆し ところでぼくはなにものか
わたしはなんだと問えば、誰かに呼んでもらえという

若者は旅にでた
土を踏み夜を越えて 火や水や風をつれ 染まる森を見た 幾度も
そうしてある美しい 美しいある朝に 美しい長い髪の娘と出会った

一つの灯りを頼りに 捧げあう互いのもちもの
むさぼるように 幾度も幾度も呼び交わすその名前

なんというか、光 あるいは愛の詞か
うつくしい うつくしい うつくしいその名前
黄金の歳月の中 その一瞬の庭に咲く薔薇
今ははっきりとわかる すべては愛だと

なんというか、光 あるいは愛の詞か
美しく 懐かしく 愛おしく時は流れる
黄金の歳月の中 その一瞬の庭に咲く薔薇
そしてまた名前などない場所へと還るだろう
そうなるだろう
そうなるだろう






bonobos - うつくしいなまえ -【official music video】