数年前、友人から妊娠の報告があった。お祝いの言葉を告げると、彼女は「今はつわりがひどくて、素直に喜べない」と言う。彼女は昔から奔放だったし、いつだって自分に正直だった。だから、そんな言葉もなんだかなあと思うと同時に、彼女らしいとも感じた。しかし今思えば、私はこのとき、つわりがどのようなものなのか、ちっとも理解していなかった。
天国と地獄――。
そんなものはあるのかどうかわからないけれど、私は妊娠初期のつわり時期にそのどちらをも見た。
産婦人科で妊娠を確認すると、うれしくてうれしくて天にも昇る気持ちだった。毎日、まだ1cmにも満たない赤ちゃんに思いを馳せて、意識を集中させて暮らす。食事、睡眠、心のあり方、どれも赤ちゃんのために質の高いものでないと、と心がける。
最初は、少し気持ち悪い程度だったつわり。
これが世に言うつわりか、と気持ち悪さに酔いしれていたのもつかの間、日に日にその吐き気は増し、ほんの数週間の間に何も食べられなくなった。正確には食べたい気持ちはあるのだけれど、食べれば一瞬にして吐き気が襲ってくる状態。
ひとつのサンドイッチを朝からお昼ごろまでかけてちびちび食べるのがやっと。しかし、食べ終わると同時に気持ち悪さもマックスに。嗚呼、なんてこと!
こうして私のつわり時期、天国と地獄(地獄多め)が始まったのである。